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2007年「Webコラム一灯」

 宇宙食で鯖の味噌煮

2007/06/29

  恋愛小説の大家渡辺淳一さんの長編「化身」は、第一刷が約20年前で、映画化もされて評判になりました。もちろん男女の絡みを軸にした濃密なドラマですが、銀座のクラブで働く若い女性についての意表をつくエピソードから始まります。


  「鯖の味噌煮が好きな女性」なのです。北海道出身だという彼女は、素朴さが際立つ23歳という設定ですが、物語の展開を予測させる食材が鯖の味噌煮だったのかも知れません。実際、主人公の評論家は、彼女を「鯖の味噌煮が似合う女性」と言い、食事への誘い文句も「鯖の味噌煮でいいんだ」ということでした。


  よく通う鮮魚の卸センターには、焼津市の小川漁港に入った鮮度のよい魚類が昼前に並ぶようです。うまい時間に行き当たると、漁の恩恵に浴します。カツオ、イナダ、タチ、カワハギ、イサキ、スルメイカなどとともに、青もの光りものも入ります。真アジ、尾赤アジ…肥えて丸々とした平サバなどは、氷の塊の中で輝いていかにも新鮮です。鮮度落ちの速い魚ですから、「〆サバいけます」といった表示があると、つい手が伸びます。


  現代の食卓の嗜好は魚より肉、というのが通説です。確かに魚は、骨をのけて身をつまむのが面倒ですし、生臭いといったイメージもついて回ります。健康ブームの中で、マグロのDHA、光りものの対高脂血症効能が見直されているようですが、それでも魚は過小評価されていると思います。刺身よし、煮物・焼きもの、加工品。いずれもコメ文化の日本の味覚にかなっているはずです。おかずとして、なにより、箸で食するのがいいのです。


  例えば、サバです。高価な「関鯖」は別格としても、新鮮なものなら、実に美味です。味噌煮ももちろんいけます。ネットで検索してみると、結構レシピなど掲載されているのです。いえ、調理法などと、大げさなことはありません。全く簡単な料理です。煮込み方などには、それなりに家庭の“秘伝”があるのかも知れませんが、魚をさばくのもいたって容易、「厨房に入らない男子」でも十分できます。生姜で臭みを消して煮汁に入れ、あとは赤味噌を適当にといてやるだけです。短時間で一丁あがり。


 ∋ 宇宙航空研究開発機構が、国際宇宙ステーションに長期滞在する日本人宇宙飛行士らが食べる「宇宙日本食」を認定した、という記事が静岡新聞の朝刊に出ていました。以前話題になったラーメンとともに、赤飯、山菜おこわ、おかゆ、ワカメスープ、ようかんなどが並んでいましたが、これこそ、と膝を打ったのが鯖の味噌煮でした。よほどお気に入りの人がいて、メニューに押し込んだのでしょうか。無重力で味わう味噌煮、どんなものだろう、などと想像させます。


  大衆食堂で、副食に魚の煮付けの一品料理をとったところ、きれいに骨をのぞいてありました。輸出国の工場で、出荷前の作業でこうした配慮をしていると聞いたことがあります。便利にはなりましたが、鯖の味噌煮にあの手ごわい骨がないとなると、それはそれで味気ないようにも思います。子どもには特に、箸の扱いとともに骨をのける仕方を食卓で教えてやる必要がないでしょうか。それなりに苦労して食べるからありがたみが増すし、旨くもなるのです。もっとも、味噌煮に生姜の千切りが宇宙食で可能かどうか、そこは定かではありませんが。

 (鮟鱇)




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