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2007年「Webコラム一灯」

 新弟子受検ゼロ

2007/07/06

  歴史はいつも、ヒーローを求めています。自分の生きた時代を、スポーツの英雄に託して記憶するというのは珍しいことではありません。長嶋茂雄、王貞治選手は間違いなくプロ野球の大立者でした。日本が繁栄の道を進んでゆく過程で、人々が娯楽に寄せる期待は膨らんできます。大舞台になればなるほど真価を発揮する背番号「3」、「1」はそうした時代にまさにかなっていたと思います。

 

  日本が物質的に先進国の仲間入りをするとは、つまりは米国というモデルに近づいてゆくことでした。だからこそ米国のシンボルである野球人気は絶大だったのです。Jリーグはもちろん誕生前で、サッカーは発展途上でした。それでも駒沢、国立競技場などのスポーツのメッカを沸かせるスターはいました。杉山隆一、釜本邦茂選手らは、五輪でメダルを獲得するのです。にわかにサッカー人気が高まります。

 

  稀代のストライカー、釜本は早稲田大の看板選手であり、今はあまり話題にならない大学サッカー関東リーグの隆盛に大いに貢献しました。彼が登場するナイター試合、国電(JR)の千駄ヶ谷駅から国立競技場にかけての行列は鮮烈でした。30年以上を経て昨年、静岡県袋井市のエコパスタジアムでその勇姿を見ました。ねんりんピックの開会式後のビンテージ・マッチに往年の名選手が顔をそろえ、杉山が、釜本がピッチを駆け抜けたのです。試合後、控え室をのぞき休息をとる釜本氏の傍らに立ちました。血色がよく、汗が浮き出たからだにはオーラがありました。年齢を重ねても、スターはスターである、と再認識しました。

 

  06年夏の甲子園は、2人の若いエースの熱投に酔いました。高校野球は炎暑の暮らしを彩る文化だと思わせたライバル対決。斎藤佑樹選手は神宮球場で一層輝きを増し、田中将大選手は1年生エースとして球宴オールスターへの出場を決めました。格差社会、年金不安。凄惨な事件が続発し、家庭も学校も教育で苦闘する。うっとうしい時代は、何より爽快さを求めていました。

 

  冬の季節をかこっていた女子ゴルフ界に宮里藍選手が登場し、卓球界は福原愛選手を得ました。水泳界は北島康介選手らが牽引し黄金期の様相です。と眺めると、寂寥感の漂うのが、わが国技大相撲です。新横綱誕生でやっと低迷を脱するかと期待を抱かせたのですが、先日の静岡新聞の社会面記事にはがっくりきました。「大相撲名古屋場所 史上初 新弟子受検ゼロ」の見出しが飛び込んできました。

 

  柏鵬時代、輪湖対決、若貴フィーバー。いずれも遠い過去の話のように思えます。礼節の乱れはつとに指摘されるところですが、それより土俵に華がなくなったように感じるのです。名力士不在、異能力士絶えて久しく、体形の大型化とは裏腹に勝負が小粒になったのです。駆け引きばかりが露骨な立ち合い、変化技の横行。優勝決定戦が一瞬の立ち合いで決まったのにはあ然としました。好角家の嘆きがよく分かります。

 

  ヒーローは絶対に必要です。角界は、本気になって育てるべきです。あの時代に○○、この時は○○といった存在がなくては、たとえ国技でも記憶に残りません。では、どうすればいいのか。名勝負に尽きます。土俵に刻まれる一番の名勝負は何にも勝ります。名勝負は、名力士がいて生まれます。名力士が人気を博すれば、後に続く者が必ず出てきます。見苦しい立ち合いや変化技は減点、罰則を科すくらいの英断が求められます。新弟子ゼロでは、あまりに寂しい。

(鮟鱇)




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