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2007年「Webコラム一灯」

 女王のミイラ

2007/07/24

   もう10年余前のことです。長年の夢だったエジプト訪問を果たしました。地中海にのぞむ古都アレクサンドリアが第一の目当てでした。文学史に刻まれる、英作家ロレンス・ダレルの大作「アレクサンドリア・カルテット(四重奏)」の舞台となった街です。北アフリカの大国第二の近代都市ですが、かつての栄華の名残りで、最近でもプトレマイオス朝最後の女王クレオパトラにつながる海底遺跡の発見報道などがあります。

 

 ∋  首都カイロ郊外のギザは、ピラミッドであまりにも有名です。市街を走るバスの車中から驚嘆の声があがりました。ビル群の間に、クフ王の大ピラミッドの三角形の上部が望見されるのです。世界四大文明の一つと現代の見事なまでのアマルガム(融合)が目前に展開されたのです。謎を秘めた巨大な構造物ピラミッドの石の表面をなでるまでもありません。エジプト古代文明の悠久、壮大を、随所で体感できるのでした。

 

   エジプトはナイルのたまもの、とはよく言われます。南部の遺跡都市ルクソールはまさに、大河がはぐくんだ文明の象徴です。世界中からの観光客がひしめく市街では、喧騒も重要な構成要素です。人をひきつけてやまない、歴史の魅力が凝縮しているのです。墓所群のある「王家の谷」では、強烈な日差しに責めつけられる思いでしたが、市内の博物館は冷房が行き届き、照明の具合もほどよく、人類の遺産をそれにふさわしい環境でゆったりと鑑賞できました。

 

   それにしても、先日の外電には驚きました。静岡新聞に掲載された記事によると、王家の谷で1903年に発見された女性のミイラが、DNA鑑定の結果、古代エジプト第18代王朝の女王ハトシェプストと判明したというのです。女王のファラオはまれで、しかも権勢を極めたことで知られますが、なんといっても、紀元前1503-1482年ごろに在位したというのですから、気が遠くなるような時代の人物です。関係者のコメントにある「ツタンカーメン以来最大の発見」という評価も十分納得できます。

 

   背後の岩山にまるで組み込まれるように建設されたハトシェプスト女王葬祭殿は、あまたある神殿建築の中でも際立った存在です。階段状のシンメトリは、列柱の横の広がりとともに、単純な構造にみえますが、その遠景の美しさは息を飲むばかりです。ファラオの権威をあますところなく物語っています。新聞掲載の外信写真のミイラのリアルさは、当時の技術の証明ですが、女王がこのように現代に蘇るとは、信じがたいほどです。太り気味で病弱だったということまで分かっているようです。

 

   女王といえば、クレオパトラを忘れることはできません。アレクサンドリアのグレコローマン博物館で見たクレオパトラ像は、鼻ががっしりした太りじしの女性のトルソでした。正直なところ、英雄シーザーを、アントニーを虜にした美貌の期待には沿ってくれませんでしたが、対面できただけでもよしとしなければなりません。科学というのは、つくづくすさまじいものだと感じ入ります。途方もない過去を再現することを可能にしてしまったのです。古代文明発祥の地がだから、今も他の追随を許さぬ繁栄を誇っているかといえば、いっときの旅人にはそうは見えませんでした。科学はまた、そうしたことをも明らかにしてしまうという意味では、残酷でもあります。

(鮟鱇)




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