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2007年「Webコラム一灯」

 アル・ゴアの平和賞

2007/10/13

   「advocate」という単語の語感が好きです。英和辞典には、「鼓吹者、首唱者、代言者」などと意味を記しています。「missionary」、「evangelist」というと、宗教的な意味合いが濃厚でしょうか。「伝道師」「宣教師」「使徒」などと並んでいます。和英辞典で「伝道する」をひいてみると、「engaged in mission」と出てきます。「使命に没頭する」といったところです。


 ∋  「使徒」という言葉は、私心を離れ、世俗の利害を超越して、しかも草の根に分け入って、人生を賭けた大仕事をする姿を連想させます。分野を問いません。情熱を込めて理念を語り、理想を説く。それはしかし、すぐれた個々人の脳内にとどまるのでなく、行動によって推進力を得て、広く大衆の実践に結びついてゆく。自らはもちろん、人々の実践を刺激することこそ、使徒の使徒たるゆえんでしょう。


   アル・ゴア前米副大統領に、ノーベル平和賞が授与されます。この選考の政治的な意味を詮索する声もありますが、最近の地球の状況に鑑みれば、必然がもたらした栄誉なのでしょう。実践につなげるのに困難が伴う抽象的な概念が、advocateを得たからです。もつれにもつれた選挙で、大統領になりかかった人、地球上の権力の頂点を極めようとした人ですが、潮のひくように熱気のさめた政治の舞台から退場した後、隠者にはなりませんでした。環境問題、地球という惑星の危機を訴える使徒として、副大統領時代を記憶の外に追いやる活動をしてきました。核のボタンを握る以上の影響力を世界にみせてきたのでした。


   住居の新築の相談をする、ありふれた日常。「太陽光発電はどうか」「コストは大丈夫か」「長い目でみれば」……。氷山が瓦解してゆく映像をテレビ画面で眺める。地球の皮膚が、筋肉がそぎ落とされる。「温暖化」が迫る自分たちの危機。「人類の課題」などというと遠大過ぎてイメージが及びませんが、パネルが屋根の上に乗っている市街地の風景は雄弁です。年々深刻化する異常気象はほかでもない、自分の体がよく理解しています。「環境」が茶の間の話題になり、事態についての認識が共有化される時代になっているのです。


   「アル・ゴア」は、環境問題の代名詞になりました。人々が、それぞれに可能な手段で実践する状況をつくり出すためには、advocateが必要なのでした。残念なことに、迷走を続ける私たちの政治の現場には、こうした使徒が見当たりません。だから、よりよい理念のための実践にエンジンがかからないのです。推察するに、私心のなさという要件で足らざるがあったのでしょう。

(鮟鱇)     




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