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2007年「Webコラム一灯」

 小布施、場の文化

2007/10/18

 ∋  秋冷に凛然とたたずむような風景です。板塀の焦げ茶が、周囲の深い緑と調和しています。庭木はよく整えられ、敷き詰められた石は幾分、湿気をふくんでいるようです。土蔵の脇を抜け、屋敷から表が見通せるあたりで、小柄な老齢の女性と行き合いました。「あれー、元気ぃー」。素っ頓狂なほどの明るさが、静寂を破ります。早口の飾らない言葉が次々と続きます。

 

   セーラ・マリ・カミングス。名刺には、「取締役/利酒師」とあります。長野県小布施町の老舗酒造場で役員を務める米国出身の女性です。ブロンドがまばゆいばかりの彼女が、日本国内でも有名なこの町を訪れたわが団体一行の案内役でした。もちろん初対面ですが、実はその名は既に知っていました。新聞や経済誌などで何度も紹介されていたのです。静岡県内を講演で訪れたことも報道されていました。

 

 ∋  交換学生として初来日。その後、小布施で木桶仕込みの酒の復活などを通して、町おこしの先頭に立ってきたのです。利酒大会に参加したのを契機に、「見つけたいと思っていた日本」を探し当てたといいます。若者と遭遇することのない信州の町で、彼女はまず海外に向けてこの地域の魅力をメッセージとして発信します。逆輸入の形で入ってきた「オブセ」は、国内でも見直されることになったのでした。自信を回復した土地で、彼女は、高齢者と若者の橋渡し役となりました。

 

   “栗と北斎の里”をキャッチフレーズにする小布施は、この時期、栗菓子の仕込みが最盛期です。きめ細かく、甘みを抑制した銘菓をたんのうする時間、煩いごとを忘れられる気分です。美術館、古刹、小径などで構成される落ち着いた空間は、地域を包み込むゆとりを体感させます。最近のニュースは、修景に取り組む3人の若者が、いぶし瓦の復活を事業化する企業を起こしたことです。セーラさんたちの努力が果実を結びつつあるのでしょう。

 

   町を挙げて修景を展開していますが、歴史家や建築家のためではもちろんなく、生活者のための「場の文化」の確立と継承を目指しています。この地域、この風土に息づく暮らしにかなう町づくりでなければなりません。成功モデルとされる小布施ですが、場の文化に集う主役、住民の理解なくしてはあり得なかったと聞きました。

(鮟鱇)




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