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2007年「Webコラム一灯」

 ユニバーサル技能五輪

2007/11/16

   それでなくとも貧相なマイホームが、年月を経てだいぶくたびれてきました。よくも一斉に、と思うほど各所に不具合が出てくるのです。畳は擦り切れ、床の塗装がはげ、壁にはしみが浮き出て、ふすまや障子はセピアに染まった紙が折れるようにやぶれてしまいます。ドアノブのねじは緩み、網戸は穴があいて、かまきりでも出入りできそうです。先日は、水道料金の検針の女性が水漏れを指摘して帰りました。

 

 ∋  メーターを収納した箱の鉄ぶたを引き上げると、確かに赤い目盛りが少しずつですが、間断なく回っています。風呂、トイレ、台所、屋外の蛇口などを点検しましたが、異常らしい部位は発見できません。近所に水道工事をなりわいとする知人がいるので、駄目でもともとと連絡をとってみました。親切にも駆けつけてくれました。素人としては、本当にありがたい援軍です。

 

   家屋周囲の水周りが近そうな個所を、土をひとつまみずつ拾いながら目視で確かめてゆきます。鍬を、と所望されて用意すると、コンクリート基礎に沿った個所を掘り始めました。徐々に黒ずんだ土に変わり、やがて姿を現した配管の繋ぎ目からからシャワーのように勢いよく水が噴出しています。その後の作業の手際のよさには舌をまきました。水道の元栓を遮断させると、接着剤を指先で器用に塗って屈曲したパイプを繋ぎ合わせました。何より感じ入ったのは、問題の個所を発見する迅速さです。表面からは変哲もないのに、湿った部分を指で探り当てたのでした。

 

 ∋  静岡県内の2カ所で開催中のユニバーサル技能五輪の沼津会場を訪ねました。関心のほどはどうか、と思っていましたが、さすがに世界規模の祭典です。シャトルバスの乗り場から既に行列で、広大な敷地が、午前の到着でも相当の混雑です。入場規制のないホールを、と配管部門から見学しました。給排水、ガス管などを施工する競技です。テント内のコマ割りに作業現場が再現されています。ベニヤの壁に屈曲したパイプが次々と据え付けられてゆきます。よく見ていると、脚立の運び方、バーナーの扱いなど手順が実にスムーズです。

 

 ∋  石工(いしく)、造園などのエリアは、フラワー装飾とともに人気の的で、30分の辛抱で入場しました。ノミと槌をダイナミックに振るう石工は、乾燥した破砕音とともに、いかにも人手がこなす仕事です。硬い原石が、目盛りの見当をはずれうまく割れない様子も見てとれました。若い選手が、チッといらつくのもごく自然な所作で好感を持ちました。破片が飛び、砂埃が舞う中で、仕上がった滑らかな作品は柔らかく光っています。

 

   この時世、機械がどんな仕事も片付けてしまうのだと思いがちですが、例えば自動化にしても、その前に基礎となる木枠などの精密な素材が必要です。そこを律するのが、ひとの技です。この「人間技」を競う大会なのです。ものづくりの原点を再認識するよい機会です。会場を埋めているのは、制服の中学生、高校生らです。製造業の将来を懸念する声が頻々ですが、案外楽観的な気分になれました。辞書には、「職人=自分の手の技術によって物を製作することを職業とする人」とあります。「職人」こそ、いま新しいキーワードだと考えます。水漏れを瞬時に修理して「こんな程度のこと」と、さもない風情をした知人の顔が浮かんできます。

(鮟鱇)




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