∋ 早朝の雑談のひととき。「例のミシュラン本、あれはただかね」との声が上がりました。「店の紹介ものだから、当然無料だろう」、「いやいや、有料のはずだが」などのやりとりを聞いていた、日頃、物知りを気取るひとりが妙に自信たっぷり言うのです。「2200円」。
∋ 新聞の朝刊1面のコラムは、各紙の売りものですが、示し合わせたように同じ話題を取り上げることがままあります。このたびは、くだんの「ミシュランガイド」東京版でもちきりです。さまざま講釈を並べていますが、無学の者には、そもそもなぜタイヤ事業の世界的企業がホテルやレストランの格付けをするのかが疑問でした。同僚が、日本ミシュランタイヤのウェブサイトをあたってくれました。
∋ “ガイドブックの歴史”の項を繰ります。1900年、というとパリ万博の年のようですが、この車の黎明期にミシュランは次々に海外進出してゆきます。「タイヤ事業だけでなく、地図の発行や街路名の看板配布など、よりよい車生活のための事業が展開」されており、そうした時期にガイドブックが創刊されました。レストランを星でカテゴリー分けするシステムは1930年代にスタートしたとか。
∋ 興味深いエピソードが紹介されています。ミシュラン兄弟が、修理工場で傾いた作業台の足代わりに数冊のガイドが地面に積み重ねられているのを見かけ、無料で配布するより有料で販売すべきだと考えたのでした。「人々はお金を払って買ったものしか大切にしない」と兄弟は語った、といいます。示唆的な話です。
∋ 島国で隣国の攻撃にさらされにくかった日本は、かねて情報(諜報)小国だといわれてきました。情報に命運をゆだねる危機を未経験だ、だから情報という形のない価値に金を使わない国民性がある、スパイが育つ余地もなかった-などの定説があるようです。極端なきめつけだと思いますが、本当に意味のある情報は何ものにも代えがたく、入手するためのコストを惜しむべきでないのは、このグローバルな情報化時代には自明のことです。一方で、有料でも購入してもらえる情報を精選して届けるのが、供給側の責務です。矜持あるプロならなおさらです。ミシュランガイドの伝統、権威の拠ってきたるところでしょう。
∋ サイトには、ミシュランの発展の方向として欧州以外の大陸への進出があり、“アジアへの第一歩”として東京版が創刊されることになった、とあります。出張でよく訪れる中央、港区などの市街には確かに飲食店が軒を連ねています。世界有数のグルメ天国だとの評もその通りでしょう。「東京に3つ星8店」の見出しに続いて、そのうち3店のオーナーを静岡県出身者が占めたという記事が出ました。うれしい限りです。もっとも3つ星に縁があるかといえば、将来にわたってノン、というところです。せめて、ミシュランの星の意味を、サイトから引用します。「3つ星=そのために旅行する価値がある卓越した料理、2つ星=遠回りしてでも訪れる価値がある素晴らしい料理、1つ星=そのカテゴリーで特に美味しい料理」。
(鮟鱇)