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2007年「Webコラム一灯」

 分かりやすさの陥穽

2007/12/20

   10年ぶりの保守政権誕生となった韓国大統領選の解説、分析を読むと、共通の指摘があります。理念の先行、対立に有権者が辟易とし、だれなら景気を立て直してくれるかに関心が集中したというのです。実利優先の空気が、経済界出身の指導者を生んだということです。理念だけでは満腹にならない、まず暮らしをなんとかしてくれ、との構図でしょうか。

 

 ∋  「宙に浮いた」年金記録の照合問題で、最後の1人、最後の1円まで確実にがんばると大見得をきったのが、舛添厚生労働大臣でした。見事なまでにアピールするキャッチフレーズで、しかも自らの部下にあたる役所・役人を怠慢だとなで斬りにするのですから痛快この上もありません。一躍、ヒーローになったのでした。

 

 ∋  公約か口約束か知りませんが、この言葉の偽装が明らかになってみると、耳に心地よい響きとは裏腹に、政治や行政の実相は薄っぺらなものだと分かります。要するに中身が乏しいのです。この言葉を発する前に、可能かどうかの検証は行われていなかったのでしょう。一方でこのたぐいの大言壮語は時代の空気を映している気がします。分かりやすいから飛びつく、中身は問わない。

 

 ∋  人々を酔わせる効果はあっても長続きはしない、という好例を近ごろ斜陽の小泉チルドレンにみます。郵政解散で国会に送り込まれた議員たちが、総選挙の観測漂う政治情勢のもとで、次の公認があやぶまれる状況で、しかもあんなにもてはやしてくれた自民党内でも孤立気味だというのです。劇場型政治の一場で、「刺客」たちは主役級を演じたつもりなのに、なんでこんなことにというのが正直な思いでしょう。

 

   本来、物申すはずの知識人の多くも当時、人格・識見、先見性や指導力などを取り上げて厳しくふるいにかけようとする姿勢をみせませんでした。熱に浮かされたような票が、善玉悪玉の対立構図の中で大量に動員されていったのでした。例えば、日本の将来にかかわる消費税の展望などが真剣に論議された形跡はないのです。むしろ話題性、エンタメ力とでもいった要素が候補者に要求されたのではなかったでしょうか。

 

 ∋  ものごとをいたずらに単純化する悪弊が、社会に蔓延しているように考えます。抑制を解かれた欲望社会で、一時の悦楽が優先される。行為を決定づける動機があっても、それを突き詰めるていねいな思考がないと、行為の招く結果についての想像力が働かない、あるいは想像力を働かせることが必要だとの認識もない。分別盛りが起こす最近の凶悪事件の背景には、こうした精神風土がないでしょうか。もともと、社会構造をそんなに単純化できるはずはないのです。

 

 ∋  年金請求手続きを促す封書に、事前に準備すべき書類が列記してあります。なかなかの分量です。記入票には、手引がついています。照合しながら書いて、さて正確だったかと不安になる向きは多いでしょう。それでも将来の暮らし、安心の老後がかかっている重要書類です。これでよいか? と提出窓口でのやりとりについて想像力を働かせて書き込み、念入りに点検します。まず自分の足で扉の前に立ち、自分の手で開けようとしなければなりません。思考のプロセスは欠かせません。受給資格を持つ人たちの60歳時点での行動はそうしたものでしょう。この行動には、切実な願いが凝縮されています。とても単純化し、あるいはさらりと済ませるものではありません。そんなこと、理念やビジョンを吹聴するだけの為政者にはどうでもよいことかも知れませんが。

(鮟鱇)




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