∋ 静岡県立美術館で開幕した「ガンダーラ美術とバーミヤン遺跡展」を紹介した静岡新聞夕刊の連載記事3回目「弥勒菩薩と遊牧民供養者」の写真説明に、「流出文化財保護日本委員会保管」というくだりがありました。2年近く前と記憶しますが、東京藝術大学美術館で「世界遺産からのSOS」という展覧を鑑賞しました。アフガニスタンの貴重な文化遺産が紛争のために危機に瀕していました。バーミヤンの大仏が破壊されるという深刻で象徴的な事件を目撃した世界の人々に、流出文化財の保護を訴える内容でした。
∋ アフガンは絶え間ない戦火にさらされ、無辜(むこ)の民の生命が奪われてきました。社会資本は破壊し尽くされ、悠久の歴史すら抹殺されてしまうのではないか、と危惧させるほどです。文明の十字路には、何物にも代えがたい文化財が残されてきましたが、人間の愚行は人類共有の価値にも及んだのでした。盗掘や海外流出の被害も数え切れません。人間の歴史は、愚かさの罪にいろどられた負の流れでもありました。焚書坑儒や廃仏毀釈などは、文化の偏狭の罪深さを語ります。
∋ 文化財を保護するとは、言ってみれば歴史への謙虚な認識の有無を問うことです。1つの国、1つの地域、ましてや1人の個人のものではない、共有の財産を尊ぶ心なくして豊かな文化生活などあり得ません。貧しさが愚挙を招くことはありましょう。地勢や権力の相克が危機を投げかけることもあります。混迷のその時こそ、冷静かつ寛容な視点で打開策を提示できるのが、真のリーダーです。経済大国の日本が、アジアのリーダーであることは論をまちません。日本は、自らの崇高な役割にさらに自覚的になる必要があるはずです。
∋ 昨年の晩秋、イラク国立博物館の保存修復技術者らが静岡市の駿府城内遺跡を訪れ現場実習を積んだことを報ずる地域ニュース記事が出ました。ユネスコ文化遺産保存日本信託基金による「イラク国立博物館の修復室の復興事業」の一環とのことでした。遺跡内の溝から出土した木製食器の修復処理に取り組んだ技術者は、初めて見た手法で貴重な体験だった、との感想を述べたそうです。アジアの仲間に提供できる知識や経験は、決して小さくないと教えています。
∋ 12月25日付けの官報に「海外の文化遺産の保護に係る国際的な協力の推進に関する基本的な方針」が告示されています。静岡新聞によると、文部科学、外務両省が策定した日本の貢献の在り方を示す基本方針は、アジアを重点地域として遺跡の保存修復などの協力を推進することをうたっています。紛争や自然災害で危機に瀕する文化遺産の保護のため、日本の技術や経験を生かして積極的に国際貢献する。まさにタイムリーで意義深い施策だと考えます。
∋ 財団法人文化財保護・芸術研究助成財団の公式サイトを開いてみました。「文化財赤十字活動」が紹介されています。文化遺産について、「歴史の生きた証人であり、人類全体が守るべき貴重な遺産で……国や地域を越えてもっとグローバルな視点から世界で協力し……」と記しています。失ってしまえば取り返しのつかない財産を守ることに主導的な役割を果たせる日本なら、アジアの信頼を必ず勝ち得ると思うのです。
(鮟鱇)