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Webコラム一灯

 ヒラリーからクリントンへ

2008/01/10

   歯に衣着せぬ言動で人気を博し猛女などとも称された田中真紀子元外相更迭劇の時だったでしょうか。時の総理・小泉純一郎氏が、「涙は女性の最大の武器だっていうから」といった趣旨の発言をして顰蹙(ひんしゅく)を買ったように記憶します。名言を並べたウェブサイトを検索してみたら、「女性をあらわした名言」という項目があり、中に「男がどんな理屈を並べても、女の涙一滴にはかなわない」(ボルテール)などと出てきました。


   米大統領選の民主党候補争いで、ヒラリー・クリントン氏が事前の予測を覆す逆転勝利をおさめました。このニューハンプシャー州予備選をめぐって、各紙のコラムは「涙」論議のオンパレードでした。緒戦で3位と出遅れムードは暗転、本命危うしの空気が漂っていました。選挙戦の帰趨にかかわるとされる第2戦の投票を翌日に控え、ずるずる後退の気配濃厚なヒラリーさんが涙を見せたのでした。動画投稿サイトでアクセス首位にもなったそうですが、候補であることの苦労を問われて女史は、「簡単なことじゃない」と、ぐっと詰まったといいます。ふたを開けたら見事な首位。「果たして涙が効いたのか」というのは、恰好のコラムねたとなったのでした。


   彼女は弱気になったのか。いや、1人の女性としてごく普通の表情を見せたにすぎない。さては「あれは演技だ」との説までありました。マシーンのように隙がなく、洗練された物腰の政治家の彼女には、冷徹なイメージがついて回ります。演説が滅法うまく、人懐こくて年代を問わず愛された夫ビル・クリントン氏といえば、大統領在職中に不倫問題で指弾をうけるありさまでしたが、結局、任期を全うしました。窮地の「だめ亭主」を突き放しつつもファースト・レディーの威厳を守るため毅然と振る舞ったヒラリーさんでしたが、大衆的なポピュラリティーに恵まれたようにはみえませんでした。まさに完璧な女性として、当然のごとく世界の盟主を目指す候補になろうとしているのです。それでも彼女は、依然、ビルの傘の下にあった、と言うのが不適切なら、夫婦で一対のように感じさせました。


   勝利を報ずる外電とともに、小さなお知らせ記事が載りました。クリントン前大統領と区別するため「ヒラリー氏」と表記されてきたのが、予備選の本格化に合わせ他候補同様、姓をとって「クリントン氏」と呼ぶことになったのです。ニューハンプシャー決戦は、名実ともに本格候補であり、独立した人間政治家である彼女を証明したのです。人間ですから、涙の一つ二つ流すのは当然です。むしろ-。


 ∋  「dynasty」という英語があります。「(歴代の)王朝」などと訳します。民主主義を掲げ民族平等、機会均等をうたう米国で、民主、共和を問わず「王朝」が形成されているのです。古くはケネディ家がそうでした。現大統領ブッシュ氏は父に次いで、親子2代で権力の頂点を極めました。知事を務める兄弟もあります。まさに王朝の風情です。次に、「クリントン王朝」が誕生する可能性があります。20数年にわたりわずか2つの家系で政権を担当するとしたら、「女性の涙」よりは研究に値するのではないでしょうか。


   ところで本邦です。dynastyは歴然とあります。さまにならない涙の政権放り出しを演じた安倍氏は、毛並みで出てきたひ弱なエリートでした。小泉氏も、現下の福田宰相も、対する小沢氏も、みんな血筋を背負っている方々です。その王朝初対決の「福田・小沢」党首討論が行われました。あのふやけた応酬を見ていると、日本の太平楽をつくづく幸せに感じます。そして、うらやましく、寂しくなります。よその国のこととはいえ、長い予備選を通じて政治家が磨かれ、与野党ともに活性化し、生き生きとしている政治の風景があるからです。

                       (鮟鱇)




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