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Webコラム一灯

 ケネディの残像

2008/01/30

   もう何年になるのか、米国の地方都市を大陸を横断するような旅程で回ったことがあります。空港で日本人と行き逢えば声をかけ合うくらいでしたから、足を伸ばす旅行者はそれほど一般的でなかったのだと記憶します。大概の町は治安がよく、友好的で懐の深いもてなしにあずかることができました。ホームステイも経験しましたが、遠来の訪問者のためにパーティーなど催してくれる中で知ったのは、市民の政治好きなことです。炉辺対話の伝統が息づいているのか、経済問題や外交、そして選挙など硬派な話題が滅法多いのです。議論の過程で必ず意見を求められるのには、英語力のない身として、正直、辟易でした。

 

   日本におけるケネディの評判を尋ねられたものです。もちろんJFK=ジョン・F・ケネディのことです。いささか押し付けがましく感じられるほど、彼らが故大統領に寄せる思いは熱いのでした。1963年、46歳の若さで凶弾に倒れたケネディ元大統領は、リベラル・アメリカの象徴で、いくつもの名言、名演説を残しています。冷戦時代、キューバ危機とともに人々の記憶に刻まれています。

 

   ケネディ家は、アイルランド系移民の成功者である一方、「悲劇の一族」と言われます。元大統領の死後、遺志を継いで政権を目指そうとした弟ロバート・ケネディ氏も暗殺されます。醜聞の波にもまれた名家でもありました。それも含めて、「米国の王家」とされるのでしょう。記事を繰ってみると、故大統領の息子ジョン・F・ケネディ氏が38歳で飛行機事故で不慮の死を遂げた際も、一家の神話性が強調されたといいます。父親の葬儀で、敬礼をして棺を見送る姿が、その無邪気な幼さとともに世界の悲しみを誘ったのでした。その彼もまた……。

 

   久々にエドワード・ケネディ氏の名を静岡新聞の紙面に見つけました。ケネディ家の末弟も今や75歳、議会民主党の重鎮になっていました。在任の長い上院議員が、次期大統領選候補の指名争いで、黒人初の大統領を目指すオバマ氏に対する支援を表明したという記事です。「ケネディのご託宣」が、目前に迫った予備選・党員集会の天王山スーパーチューズデーに及ぼす影響が取り沙汰されていました。

 

   静岡新聞記事データベースで、「エドワード・ケネディ」を検索したら、1988年以降の登録記事33件とありました。その多くが恐らく外信面で扱われたでしょう。目につく見出しを拾いながら本文を眺めました。一時代、権力の頂点に近かった彼の軌跡にもやはり、米国民が寄せる思いの一端が見えるように感じました。乱暴に要約すれば、それは「カリスマへの渇望」ではないかということです。

 

   移民を受け入れる多民族国家、あまたの政治的実験を可能にした包容と寛容の国を映し出す光の一方、核など軍事力を背景にした強圧的な姿勢、人種差別やテロの横行、銃や暴力をめぐる国論の分裂、自らの主義の押し付けなど影の部分も見逃せません。角逐の国際情勢に目を光らせ、またかかわってゆくこの複雑なスーパーパワーを動かしてゆくには、強烈な指導力が求められます。米国を率いる政治家には、欠くべからざる要件と言えます。その意味では、極めて明快な政治構造です。

 

   エドワード・ケネディ氏が登場する同じ日の紙面に、施政方針といえる一般教書演説を議会で行うブッシュ大統領が取り上げられています。テレビ映像に目をやります。スピーチの区切りごとに立ち上がって拍手をおくる議場の興奮はおなじみですが、イラク政策の破綻でずたずたになったブッシュ氏が政権を去る年になって夥しく喪失したのが、この指導力=カリスマ性でしょう。ブッシュ氏の高揚と裏腹の、何となしの淀んだ空気を読み取ってしまうのです。これが、落日ということなのか。関心はすっかり予備選に移っているのです。

 

   王朝と呼ぶほどではないにしても、日本政界でもいわゆる「三ばん」を引き継ぐ二世、三世など血筋が幅をきかせる状況になっています。しかし、若い宰相が無残な退場を余儀なくされたように、カリスマ性など縁遠いのが実態です。国会攻防も、奇妙な締まりの無さです。政治の器量がすっかり小さくなってしまったのです。リーダーシップへの渇望の度合いは、日本も負けず劣らず強烈なはずですが。

(鮟鱇)




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