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Webコラム一灯

日本人と英語

2008/02/15

   米大統領選の候補者選び、殊に民主党の予備選は熾烈を極めています。ニュースサイトや陣営のホームページを検索してみると、名乗りを挙げている政治家の会見・演説の姿が映像で流れていたりします。米国政治に浸透するネット選挙の実態がうかがい知れますが、ここで印象的なのは「言葉の活力」です。勢いのある単語が踊り、ドラマチックに語られ、いやでも有権者の参加意識が高揚するようにみえます。


   「CHANGE(かなり大きな文字) WE CAN BELIEVE IN」というキャッチフレーズを掲げる会場で、「変革」「時が来た」「私たちは前進している」と繰り返し叫ぶと、演出などなくとも歓呼が地響きのごとくどよめくのです。言葉が内包する理念・思想はもちろん肝要ですが、語るひと、語る調子も劣らず重要だと思います。 

 

   英語は演説に向いた言語だとかねて感じていますが、仮にバイリンガルの日本人が同じ言葉をしゃべってみたらどうか、などと想像します。怒涛のようなあの迫力が望めるかどうか。恐らくスピーチライターが知恵と経験の限りを尽くして書き上げた中身を頭に詰め込み、当意即妙の応答に対応できるように弁を磨く政治家本人の知られざる努力を、単に英語が流暢だというだけで補えるかは疑問なしとしません。「政治は言葉による闘争」だといわれます。劇聖シェークスピアが、例えばアントニーの台詞を書けば、それは聴衆をひきつけ操る魔力を有しています。選挙という舞台で最も如実に試されるのが、その言葉の力ですから、闘争の激しさの度合に応じて弁舌の冴えも異なるのでしょう。


   英語は、日本人にとって宿痾(しゅくあ)ともいうべきものです。教育の場で決して軽視されてきたとは思えません。英文法、英作文、英会話……等々に、国家規模でエネルギーとコストを投入してきたはずです。そして、「何年やっても話せるようにならない」という、いつもの嘆きに行き着くのです。方法を誤ってきたのでしょうか。


   国際政治・経済、学術・文化などで要職を占める途上国の代表が演説する様子が、ニュース映像で流れるようになりました。共通語の英語を使うのですが、とても流暢には聞こえません。むしろ、たどたどしいとすら感じます。けれど臆する気配はありません。堂々と説得の術を繰り広げるのです。私の話に傾聴しなさい、と。静岡県内の教育や事業活動の現場でも、アジア諸国からの留学生や駐在の企業マンが自己流の英語を駆使して、妙に存在感があるのです。


   もう随分以前、長い出張で米国の地方都市を回ったことがあります。ネットの普及など想像すらできない時代で、英字紙の入手も楽ではありません。トピックとしては、定期購読していたタイム誌などでかじった政治・経済、外交などが中心でした。辞書をひきひき仕入れた知識を乏しい会話力で持ち出そうというのですから、乱暴な話です。意図が十分通じたかは別にして、「(極東の果て?)日本で、そこまで米国は関心を持たれているのか」という事実に驚く人々が行く先々にいました。これが会話の糸口になって、次の話題へと広がってゆきます。語学力の貧困さはおいて、結構、意思疎通できたような気分になったものでした。


   最近、静岡新聞で読んだ2つの評論、論説記事が、くしくも日本人の宿痾を取り上げていました。「何のための語学か 流暢さより中身で競え(イーデス・ハンソン、2月2日朝刊)」、「小学校からの英語教育(伊藤元重、2月7日朝刊)」。ぜひご覧いただきたく、紹介します。何やかやといっても、日本が21世紀の国際社会で世界の潮流を見誤ることなく生き延びてゆくには、英語力が欠かせません。話題に何を盛り込むかが肝心ですが、それにしても、技術としての「訴える弁舌」をこれまでないがしろにしてきたことは間違いないと思うのです。つまり、必要に迫られての、恰好の訓練の機会を逃してきたのです。   

                           (鮟鱇)




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