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Webコラム一灯

ご当地ソング浜松

2008/02/22

   東京での会合。予定をこなして、全国から集まる知人たちと酒席を囲むことがあります。勢いで二次会となれば、カラオケはご当地ソング特集と化します。歌を通した陽気な“お国自慢”は深夜に及び、マイク片手に悦に入る主役を冷やかしながら、名所旧跡、酒や肴を中心にした物産情報などを仕入れることになります。後で品を取り寄せるのに、知恵を借りることも一再ではありません。


   “静岡代表”に順番が回ってくると、囃し立てるようにギャラリーが催促するのは、石川さゆりの「天城越え」です。今や演歌の古典と目されるほどの名曲で、すっかりなじみとなりました。浄蓮の滝、寒天橋、天城隧道など伊豆の風景が盛り込まれ、「この一曲」にふさわしいようです。これがしかし、音痴の素人には滅法難しいのです。大体、狂気をはらんだ女性の情念など理解を超えていますし、微妙な節回し、間の取り方も技巧を要します。


   「津軽海峡・冬景色」で開眼した石川さゆりの曲では、「風の盆恋歌」もなかなかです。穏やかな曲調の裏に激しい魔性がひそむおとなの恋を歌っているようですが、「天城越え」に比べると、多少は平易かもしれません。このように並べてみると、彼女のヒット曲に「ご当地ソング」が多いことに気付きます。タイトルから拾ってみます。能登半島、火の国へ、越前竹舞い……。一つの到達点が「天城越え」でしょうか。


   もう随分以前に入手した、青江三奈の2枚組CD全集を久々に引っ張り出してみました。ブルースという言葉でくくられる彼女特有の演歌の数々には、県・市名、町名など全国の地名が出てきます。札幌、盛岡、新宿に池袋、伊勢佐木町、木屋町、長崎等々、相当数に上ります。女性の恋のいたみ、不幸を歌い上げる締めは「ブルース」という言葉を入れて定型化しているようにさえみえますが、あのハスキーボイスは、それぞれの夜の街の雰囲気をこまやかに表現します。


   既に懐メロの部類に入り宴会でリクエストが寄せられるのも、考えてみればご当地ソングが多いのです。独自の歌謡世界を持つベテランが情感、哀感を込め、時に怨念の闇を歌ういくつかの曲を思い起こします。小林旭の「昔の名前で出ています」、「もう一度一からでなおします」、北原ミレイでは「石狩挽歌」、「漁歌」、「新宿海峡」。みな地名がキーワードになっています。


   日本中の酒場、盛り場の歌めぐりが歌謡曲のジャンルとして確立されている通り、「酒、涙、女」で構成される演歌に欠かせないのは、「土地」です。「土地の人々」は、「ご当地」の曲だからこそ、郷愁、ふるさと志向の反映として支持するのです。小説、美術にしても、人間という存在、その心の深淵を突き詰め掘り下げようとします。人は本来、土地・風土と離れて棲息しません。人生のドラマを歌い上げる音楽が、土地と無縁であること自体が困難なのかもしれません。


   政令都市・静岡県浜松市を歌うご当地ソングが、市のPRをサポートする「やらまいか大使」の西條キロクさんの作詞作曲で生まれた、との記事が静岡新聞に掲載されていました(21日朝刊)。歌詞に12回も浜松が出てくるとか。来月末、全国発売されるという本格版「浜松の歌」のヒットを楽しみにしています。カラオケに流れる息の長い“名盤”になれば、「やらまいか」効果を実証することになるからです。   

 (鮟鱇)




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