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Webコラム一灯

 福田語?

2008/05/30

 ∋  だいぶ以前、静岡県内の市と“姉妹縁組み”している米国内の都市を東部から西部まで取材したことがあります。広大な大陸を縦断するような長い旅でしたが、そんなミッションが珍しい時代でしたから、提携先の町の市民から大変な歓迎を受けたものです。ローズボウルで知られるカリフォルニア州パサデナ市では、美のシンボルである「ローズ・クイーン」と握手する幸運に恵まれたのですが、なにせ貧弱な語学力、たいした会話もできずに終わってしまったのは悔やまれました。せっかくの機会に話の接ぎ穂すらないのです。適切なトピックを持ち合わせないことを大いに恥じました。


   新聞の内政欄には、首相の日々の動静を時系列でメモ風に追跡する記事が出ています。それ自体は無味乾燥な記録ですが、政局が動く時期には、だれと会っているのかなど興味深い記述もあるのです。先日は、全米さくらの女王の表敬を受けた旨が記されていました。所要16分間でしたから、比較的長い面談でしょうか。首相は愛想よく、彼女の姓が「リトル」であることを取り上げて、「リトルなのに大きい」といった趣旨のジョークを飛ばしたようです。精一杯の福田流もてなし語なのでしょう。ただ体型や容姿を話題にするのは必ずしも適当でない場合があると聞きます。せめて、「さくら」にまつわる、気の利いたエピソードでもなかったかな、と思いました。小泉元首相が盟友ブッシュ大統領とともにメンフィスの記念館を訪ねて興が乗り、突如、プレスリーの真似をしたことがありました。大歌手への傾倒ぶりは、かの国の人々にアピールしたかどうか。傍らで見守るブッシュ氏の表情に、いささかの当惑が浮かんでいるように感じたものでした。


   政治は言葉による闘争だといわれます。米大統領選の民主党予備選が土壇場までもつれる中で、オバマ候補の演説ぶりが称賛されています。有能なスピーチライターがついているのでしょうが、例のキャッチフレーズ「Yes,We Can」は見事に浸透しました。討論会の応酬でも、年齢に似ず老獪さがみえます。変革への期待を盛り上げる巧みな話術です。当意即妙な受け応えには、修羅場でもまれてきた味わいが漂うものです。緊張が極にきた時にさりげなく漏れるジョークなどには格別の効果があるはずです。


   ただし不用意な発言は厳に慎むものです。効果どころか、失言妄言にもなるから要注意です。指名争いで窮地のクリントン氏が、敗色濃い選挙戦を続ける理由を問われて、ロバート・ケネディ元司法長官暗殺事件を引き合いに出したそうです。優位に立つオバマ氏の不測の事態を望んでいるかのように受け止められかねない不適切発言として直ちに謝罪したようですが、クリントン氏にしてみれば口は災いのもと、泣きっ面に蜂といったところでしょう。


   先に訪日した中国の胡錦濤国家主席の早稲田大でのシーンは妙に印象に残っています。交流行事で福原愛選手ら日中両国選手による卓球の試合に飛び入り参加したのです。やおら上着を脱ぎ、めがねを外していかにもやる気満々、「愛ちゃん」とのラリーを披露しました。お遊びにはとても見えない、真剣な表情で次々とスマッシュを放つ姿に驚愕の声が漏れました。一方、愛ちゃんはといえば、たじたじの態でした。同行した福田首相のコメントは、「なかなかに戦略的な卓球」だったように記憶します。


 ∋  文化大革命、天安門事件など苛烈な歴史の傷がいまだに残るといわれます。激しい権力闘争を生き抜き、大国を率いる最高ポストに立った人物が、表向きの温和さとは異なる素顔を秘めていることは想像に難くありません。たかが卓球、などとおろそかにしないのでしょう。それはそれで、下手なジョークなどよりよほど説得力があるでしょうし、好感をもちました。福田語、福田スタイルに欲しいのは、常にはぐらかすような洒脱よりも、誠意ある説得だと思うのです。                    

(鮟鱇)




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