∋ 親しい友と痛飲して深夜、時にタクシーを利用します。愛想のよさそうな運転手さんとみれば、車中の会話を楽しみます。話題はおおよそ、景気から始まります。「もうかりまっか」というところです。公的な統計数字はもちろん重要ですが、飲食店街などの状況、客から仕入れた生活実感に根差した“金回り”情報をふんだんに持っているから、景気ウォッチャー役としてうってつけなのです。そして、世知辛い世の中だという嘆きを聞くことになります。
∋ 夜通しの勤務もある重労働の割りに“上がり”が少ない商売だと、愚痴をこぼす高齢の運転手に同情します。確かに、週末の夜中の繁華街でも客待ちの列を見かけることが珍しくありません。以前は、乗車拒否などという言葉がありました。バブルの時代には、タクシーの方が客を選んでいたとも言われました。「接待が厳しく追及される世相になった」「飲み屋街の主役である若者の財布のひもがかたい」等々、逆風下にあるのかも知れません。
∋ そこへゆくと、料金を意に介することなく太っ腹にタクシーを利用してくれる“親方日の丸”の中央省庁・機関の職員は、上得意に違いありません。霞が関界隈で通ずる業界用語でしょうか、居酒屋タクシーというそうです。残業を終え公費を使って深夜、帰宅する職員が、タクシー車中でビールやつまみを振る舞われ、あまつさえ商品券や現金の提供まで受けていたと報じられました。
∋ 霞が関体質を取り上げた特集記事によると、チケットを使い放題、すすめられたビールを断る客はほとんどないそうです。逆に催促する徹底ぶりと聞くと、あ然とします。多くが個人タクシーで、そこは弱い立場としては気遣いも並大抵ではなく、トランクにはクーラーボックス、メニューまで用意していたケースもありました。携帯電話番号を書いた名刺を渡して、直接連絡をもらえるように頼んでおく。役所のチケットを使うおいしい客をお得意に抱えたい。切ない個人タクシー、そこに付け込むさもしい乗客。さすがエリート官庁、財務省は「話が分かる人が多い」とか。
∋ 自分の金でないから惜しむ必要なし、ということでは「公金」感覚など無縁になります。社会通念上許されるのか、といった議論が出てきますが、そもそも霞が関の住人らが倫理規範をリードしなくてだれがするでしょう。それとも、かの地には、社会通念とは全く別種の役人通念でも流布しているのでしょうか。国土交通省では本省職員についてチケットの利用を試験的に中止することになった、というニュースが入ってきました。さて他の省庁は? 格差社会の是正が声高に叫ばれ、国家一丸になっての取り組みが求められている時に行政の中枢で露見した問題。憂鬱な梅雨空が覆っています。
(鮟鱇)