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Webコラム一灯

 落書き騒動

2008/07/04

   散歩の途次、河川をまたぐコンクリート橋脚や壁面にスプレー式の塗料で落書きしてあるのを目にするようになりました。グラデーションのように、細かい飛散粒子が広範囲に広がっていますから、消すのもなかなか厄介だと思います。放置しておくと、それが誘因になるのか、下手な絵や稚拙なアルファベット文字などが増殖します。以前の落書きに比べると、悪質さが際立っています。

 ∋  イタリア・フィレンツェで、ユネスコの世界遺産に登録された地区にある大聖堂の壁に日本の女子短大生が落書きしていたのが観光客の指摘で発覚しました。2月の研修旅行の際に、油性ペンで学校名の略称や友人のニックネームを書いたものでした。それだけでも眉をひそめる“事件”なのに、同じ観光名所で別の男子大学生や高校野球部の監督までが愚行を暴かれました。

 ∋  学生の停学、監督の解任などの厳罰が下されたのですが、意外や、現地で当初は同情論が出ているように伝えられました。日本は「間違いに対して哀れみがない」というのです。落書きの量はイタリア語、英語が圧倒的に多いことも背景にあり、かの地の世論がさほど問題視していないようなのです。鷹揚な国柄だと“感心”していると、やはり空気は変わってきました。

   大聖堂の修繕責任者は、日本人が深い謝罪の意思を示したことに驚き、その良識に「敬服する」というのでした。日本人は元来、恥を知る民族です。「恥の文化」は外国人にとっての不思議でしたが、こんな事件を契機に見直されたのでしょうか。何事につけ直ぐに謝る日本人、という誤解はもちろん歓迎しないのですが。

 ∋  外国では地下鉄車両や公共建物を埋める落書きはつとに報道される通りです。ですから、犯罪抑止にからめて「破れ窓理論」が持ち出されます。建物の窓が割れているのを放置すると、他の窓も壊される。その拡大版が凶悪犯罪であり、軽微な違反も早期に取り締まることで治安の回復がはかれる、といった認識から米ニューヨーク市のジュリアーニ元市長が成果を挙げたといわれます。名だたる犯罪都市が、象徴である“破れ窓”の追放により蘇生したということでしょうか。

 ∋  物好きかもしれませんが、外国を訪れてよく観察するのは、公衆トイレです。空港ビル、観光地や商業施設、公共機関、公園などのトイレ事情にその国の生活程度、民度などがよく反映されると思います。良識、倫理、公共心、そして治安の一端がのぞけるのです。近代都市への変貌を遂げる街の真ん中のスーパーマッケットのトイレで、床面といわず壁面、タンクなどが不衛生に変色し、あまつさえ便座まで汚物で汚れているのに出くわして当惑したことがあります。落書きが文化だとすれば、公衆トイレの衛生状況もある種の指標とみなされるでしょう。文化というのは、その所有者・受益者全員が負ってゆかなければならない、実は難儀な代物でもあるのです。

(鮟鱇)




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