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Webコラム一灯

 高揚する人辞める人

2008/09/26

   麻生太郎氏68歳、高揚が傍目にも明らかな第92代首相が、官房長官らを従え自ら閣僚名簿を読み上げている頃、あの人はどうしていたのでしょうか。「あなたとは違うんです」と、いかにも卑小な捨て台詞を残して退任会見を締めくくった福田康夫氏のことです。在任1年の長短はもう問いませんが、それにしても、もう少しスマートな退場の仕方があったのではないか。一国の宰相なのですから。

   新内閣誕生に伴ってマスコミ各社が行う世論調査が出そろいました。共同通信社の調査では、麻生内閣支持率は48.6%、不支持32.9%という数字でした。普通、ご祝儀相場とかいって発足直後の支持率は比較的高めに出るようですが、いささか期待外れというのが周辺の感想ではないでしょうか。2代続けて政権を放り出した醜態の後遺症もあるでしょう。その福田さんの内閣の発足時の支持率57%、その前の安倍晋三内閣では65%だったといいますから、「48.6%」はどうにも意味深に思えるのです。

   支持率の数字から目を転ずると、「小泉元首相引退へ」の大見出しが静岡新聞フロント面に踊っています。総理5年半は、最近では長期政権でした。党内にさしたる支持基盤もなく総裁選出馬を重ねていたころは、ドン・キホーテと呼ばれていたその人の、大向こうをうならせる2001年の総裁選勝利。そして参院選。あの夏をはっきりと記憶しています。静岡市の繁華街は聴衆で埋め尽くされ、遊説に訪れた「純ちゃん」の絶叫に呼応して、異様とも思える熱気に包まれていたのでした。いわゆる劇場型政治の幕が開いたのです。「改革なくして成長なし」などのキャッチフレーズは、閉塞状況を打ち破る心地よい響きをもっていました。「自民党をぶっ壊す」と公約した総裁のもとで自民党は息を吹き返し、その後の郵政選挙で圧勝したのでした。いわゆる「国民的人気」に支えられ、「小泉」は一種のカリスマと化し、政治にポピュリズムが兆しているようにみえました。

   自らも責めを逃れられない後継政権の無残な失敗もあり、小泉改革は風前の灯といわれます。打ち出した重要政策はいずれも否定されつつあります。政治の風景はかくもあっさり転換してしまうのです。「36年間議員生活をしてきたが、自分の役割は済んだ。引き際を大事にしたい」というのが、引退の弁でした。「改革」の光の部分に酔った時間はほんのわずかで、今は影の側面が「格差社会」に象徴されるように暮らしを圧迫しているといわれます。

   「出処進退=役職にとどまることと役職を辞すること。身の振り方(大辞泉)」。日本人の美意識に深くかかわる言葉が、「引き際」でしょう。満開を迎えても、花の命ははかないもので、だからこそ桜を愛でるのです。組織を率いる立場に就いたその瞬間から、辞め時を念頭に置くのがトップの心得とされ、「辞表を抱く」などとも言うのです。出処進退いかにあるべきか。使命に殉ずる決意、いつなんどきでも去る覚悟。「千万人といえども吾(われ)征かん」の気迫でこそ歴史に残る仕事ができるというものです。小泉氏の心中やいかに、と想像します。

   同じ世襲議員、名門中の名門の麻生氏は、この幕引きをどんな思いでみているでしょうか。総裁選は圧勝だったものの、新内閣の船出はめでたさ「中くらい」といえそうです。小泉引退表明の前の調査だったとはいえ、余計に「48.6%」は考えさせるのです。これもやっとの思いで手中にした権力の座。妙に格式ばった言葉の数々が高揚のなせるところとは分かりますが、それに水を差すかのように、恬淡と去る御仁もある。これもまた、政治の面白味なのでしょうか。
(鮟鱇)



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