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Webコラム一灯

 ノーベル賞の系譜

2008/10/08

   便利な世の中になったものだと感じ入るのは、こんな時です。大学の同級生で在京のメンバーが連絡を取り合い、編集委員会をつくって同窓会報を作成しメールで配信してくれるのです。力がこもっているのは、今は亡き恩師の特集号です。「毅然」という言葉がふさわしい、古武士のような学究でした。富や名声を求めず権威と対峙し、厳しい指導の一方、学生には分け隔てありません。卒業後も、劣等生の訪問を何より喜び歓迎してくれたものです。パソコン画面に読む会報からは、同じ学窓の仲間たちが寄せる追慕の念が伝わってきます。

   夕食後にくつろいでいると、夜勤のデスク業務担当の同僚から電話が入りました。日本人3人にノーベル賞の知らせです。「3人」という数にまず驚き、それぞれの名前や業績などを尋ねます。この吉報は、「静新SBSニュース速報」を受信しているユーザーに早速送られました。日本人のノーベル賞受賞は2002年の小柴昌俊氏(物理学賞)、田中耕一氏(化学賞)以来6年ぶりで、計15人になるといいます。金融危機、株式市場の混乱、政局の流動、食への不信、年金改ざんなどうっとうしいニュースばかりの日本の暗雲を吹き払う明るい話題です。

   小林誠氏とのコンビで「小林・益川理論」を73年に発表したという益川敏英氏の会見をテレビで見ていて、深い感動をおぼえる場面がありました。軽妙な受け応えで、まるで他人の日常のエピソードでも語っているかのようだった益川さんが、グッと詰まり涙ぐんだのです。大先輩である南部陽一郎氏との同時受賞になった感想を求められました。南部氏を学ぶことに自らの理論構築も根差している。仰ぎ見てきたその巨匠と同じ時に栄誉に浴する。感極まったのでした。

   アカデミズムの世界に不案内ですが、報道によると、南部氏はずっと以前から“候補”であり、いつ受賞するのかと期待が続いていたようです。そして87歳。日本風に言えば米寿を目前にして、最高の褒美を贈られる。後に続く研究者が、そのことを何より喜んでいるのが分かるのです。

   「日本人とノーベル賞」といえば、まず思い浮かぶのが49年の湯川秀樹博士、そして65年の朝永振一郎博士です。理論物理学は、日本の得意分野だそうですが、先達の偉業が2人に傾倒する後継者を生んだのでしょう。日本を世界に知らしめる、などというと狭い了見のようですが、創造的な技術立国、平和国家の針路を示し開拓する「フロンティア・スピリット」こそアカデミズムの醍醐味だと思うのです。基礎、基盤を確立することの偉大さとも言えます。

   南部氏について、先に受賞した小柴氏が紹介した心温まる会話が、静岡新聞に出ています。旧知の南部氏にお祝いの電話をし、「生きているうちに(ノーベル賞が)来てよかったね」と伝えたそうです。ざっくばらんな物言いに2人の深い交友、信頼がくみ取れます。「何十年も前に受賞しておかしくなかった。多くの物理学者がそう感じていた」というのです。日本の“知”の滔々たる流れを想像してうれしくなりました。

 ∋ わが師を偲びます。実に難解なテキストを用意していて、講義は試練そのものでした。長い時を経てしかし、講義でのやりとりがふと浮かんできたりするのです。その後、さまざまなジャンルの人たちとの付き合いの中で、回顧談を持ち寄ったりして盛り上がることがあります。太刀打ちかなわぬと早々に知の作業から退散した落ちこぼれが、少なくともとばくちにまでは連れていってもらった日のあったことを思い出します。なにはさておき、「3人のノーベル賞」、どんな声高な日本礼賛、キャンペーン・フレーズよりも弾む気分をもたらしてくれました。  

(鮟鱇)




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