日本一有名な医師はおそらく、漫画の主人公ブラック・ジャックだろう。医師免許を持たない天才医師が苦悩する物語を借りて、手塚治虫氏は「生命を慈しむ」という重いテーマを少年や社会に投げかけている。
医療技術は格段に進歩したが、現代ほど命が軽視されている時代はないかもしれない。殺人や自殺、事故などのニュースが絶えない毎日の中で、命が尊くかけがえのないものであることに、強い実感を持っている若者は少ないようだ。彼らは電子ゲームの中で、日常的に殺人を経験し、行き詰まったらリセットボタンで人生をやり直す。また、祖父母などの身近な人の病や死の苦しみ悲しみに寄り添うことが少ない。
医学博士で実際に臨床の経験を持つ手塚氏は、自らが担当し懸命に治療し続けていた患者が、亡くなった直後に穏やかな顔に戻っていくのを見て、がく然としたことがあるという。命の尊厳を守る事は生やさしいことではない。ブラック・ジャックは大金をはたくか、心の底から「生きたい」と願う者にだけその腕をふるうのだ。(富士常葉大学教授)
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▼山田辰美(やまだ・たつみ)氏 1952年、藤枝市生まれ。NPO里の楽校理事長、富士学会監事などを務める。川や里山などの生態研究や環境教育の最前線に立つ。
山田辰美氏が生活の中で自然と触れ合うヒントを連載したコラム「山田辰美の自然だいすき」は静岡新聞の金曜 |