鶏小屋の中で卵拾いをした子どもたちは、産み落とされたばかりの卵の温かさに驚いた。そのまま温めればひよこになる命を宿した卵であることに感激している子どもに、飼い主は「もったいないから、こいつも食べて」と言って鶏を渡した。子どもは鶏を胸に抱いて、あぜんとしていた。私たちの主催する子どもキャンプ「里の楽校」でのことだ。
毎日卵を産み続けた鶏は次第に産む数が減る。有機栽培された飼料や菜っ葉を与えて地べたの上で育てた鶏は肉質はちょっと硬いが安全でうまい。昔は、肉屋さんが1羽200円程度で買い取ってくれたが、今では廃鶏といってお金を払わないと引き取られない。農家の人にとっては、手塩にかけて育てた鶏の扱いに、理不尽で悔しい思いを禁じえない。「もったいない」とは価値ある物が不当に扱われる事を残念と感じる日本固有の美意識だ。食べてもらって、子どもの血肉や元気のもとになってくれれば本望なのだと思う。命はそうして、別の命にバトンタッチされるものだ。食事のごとに唱える「いただきます」の祈りがそこにある。(富士常葉大学教授)
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▼山田辰美(やまだ・たつみ)氏 1952年、藤枝市生まれ。NPO里の楽校理事長、富士学会監事などを務める。川や里山などの生態研究や環境教育の最前線に立つ。
山田辰美氏が生活の中で自然と触れ合うヒントを連載したコラム「山田辰美の自然だいすき」は静岡新聞の金曜日夕刊に連載中です。SBSラジオ「山田辰美の土曜はごきげん」は毎週土曜日午前7時から放送。
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