人生で初めてつかんだ「ゆとり」が、地域に目を向けるきっかけになったのかもしれない。
60歳まで2年を残して昨年、石油販売会社を退職した杉本勇さん(59)=静岡市葵区水落町=はNPO法人「マンパワーカフェ」(同区横田町)で地元中小企業の支援に取り組んでいる。「これからの人生をぼーっと過ごすのは嫌だった。目標を早く見つけるべきだと思った」。杉本さんは“転身”の理由を明かす。
「職場の若手に後進を譲り、家庭でも長男が1人前に成長した。ゆとりを手に入れて、次に何をしたいのか悩んだ」。昨年11月、知人に誘われて出席した地域活動の勉強会。その時、初めて存在を知ったマンパワーカフェはまさに、渡りに船だった。
戦い抜いて…
三菱電機静岡製作所(同市駿河区)のOBを中心にマンパワーカフェが設立されたのが3年前。以来、中小企業の経理から親子を対象にした科学教室の開催、高齢者宅の蛍光灯の取り換えまで、会員たちが現役時代に培った技術を生かしながら活動の幅を広げてきた。杉本さんは、環境経営システム「エコアクション21」の取得を目指す企業の支援活動などで、営業マンだったかつての職歴を生かしている。
団塊世代のサラリーマンは就職後、「企業戦士」と呼ばれ、多くは家庭や地域を顧みることなく、がむしゃらに働いてきた。杉本さんもその1人。子供の学校行事にも地域の活動にもほとんど参加せず、ひたすら競争社会を生き抜き、会社では役員に上り詰めた。
「NPOに参加したのは、これまで地域にかかわれなかった自分への反省があるのかもしれない」。杉本さんを突き動かした背景には、そんな思いがあるという。
一方で、社会学者や経済学者の間では、国内は今後、団塊世代がボランティアやNPOなどの分野を担わなければ、社会水準が維持できないとの意見もある。
自ら受け皿作り
県ボランティア協会が昨年実施したアンケートでは、回答した県内ボランティア・NPO1776団体に所属する会員は約17万5000人。このうち約6割は「主婦」と「定年退職者」だ。同協会の横山裕美事務局次長は「子育てでも高齢者支援でも、団塊世代が活躍できる受け皿作りは急務だ」と指摘する。
だが、杉本さんの分析は楽観的だ。「受け皿がなければ自分で作る。団塊世代はまだ、若者に負けないだけの気概と社会に貢献できる行動力にあふれている」
メモ
内閣府が2005年に実施した調査を基に発行した「平成18年版国民生活白書」では、60代の社会参画への意識は高まっており、64.4%が「社会に役立ちたい」と回答。しかし、活動情報の入手先は「友人・知人の紹介」が半数以上で、仲間がいないNPO、ボランティア活動には参加しづらい実態が浮かび上がっている。このため、白書は高齢者の参加を促す方策として、団体側からの積極的な情報開示などを求めている。