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おとな派 読み物

【寄稿・わが至福の時】「屋久島・宮之浦岳登山」

2007/06/25


 

(写真1)ガスの中に浮かぶ屋久杉とヤクシマシャクナゲ

 九州最南端の鹿児島県・佐多岬から南へ約60キロ。黒潮洗う太平洋の海に浮かぶ屋久島は「洋上アルプス」と呼ばれる。海岸からせり上がる深い森。その奥に九州最高峰の宮之浦岳(1,935メートル)をはじめ永田岳など1,800メートル級の山々が連なる。島の外周部にも愛子岳、モッチョム岳など1,000メートル級の山が聳え、島全体がアルプスというスケールの大きな名に恥じない山容を誇る。
 平成5年、島の約20%(約1万1,000ヘクタール)が世界自然遺産に登録され、主峰・宮之浦岳は自然遺産区域の中心に座す。山好きにとって一度は訪ねてみたい山だ。わざわざ梅雨入りを待っていたかのように6月中旬、山の仲間とともに屋久島空港に降り立った。



 

(写真2)ピンク色のヤクシマシャクナゲ

(写真3)登山道に姿を見せたヤクシカ

 
 「ひと月に35日雨が降る」と形容されるほど雨の多い屋久島に、「何も好んで梅雨時に行かなくてもいいのに」という声もあった。しかし、「雨の島なら雨の時期に行くのが一番。森や山が最も美しく輝く姿に接することができる」と、この時期を選んでの訪問となった。
 鹿児島空港を飛び立つ時は強い雨で出発が遅れたが、屋久島空港上空には晴れ間も見えていた。しかし、黒々とした深い森の奥に連なる山々には厚い雲が垂れ込め、その山容をうかがい知ることはできなかった。
 
 翌日はまだ暗いうちに宿を車で出発。淀川登山口に着くころには空は白み、ちょっぴり青空ものぞかせた。登山道はまさに緑滴るうっそうとした森の中を、アップダウンを繰り返しながらたどる。何という名の木なのだろう。次々に巨木が現れ、タコ足のように広げる異様な枝ぶりに目を見張る。苔むした巨木の根元からは水が滲み出し、いく筋もの細い流れとなって音もなく登山道を洗っている。豊富な雨がもたらした水と緑の自然豊かな営みがある。

 

           

(写真4)巨大な縄文杉
 



 

 登山口から2時間余で高層湿原の花之江河に着く。日本庭園を思わせるような光景はそれまでの疲れを忘れさせてくれる。この頃からガスが濃くなり、まったく遠望が利かなくなった。流れるガスの向こうに白くボーっと浮かぶヤクシマシャクナゲの花が幻想的な景観を作り出し、たびたび足を止めさせた。
 歩き始めて5時間弱、屋久島世界自然遺産真っただ中の宮之浦岳山頂は白い静寂の世界に包まれていた。
 この日の登山計画では来た道を引き返すことにしていた。しかし、時間はまだ早い。ガスが吹き上げているものの、雨が降る気配はない。ちょっと大回りになるが縄文杉経由で下ることにした。スピードを速めての下りに、神経を足元に集中する。登山道には、われわれを先導するようにたびたびヤクシカが姿を見せた。近くを通っても驚く様子はなく、逆に登山者をじっくり観察しているようだった。
 話に聞き、写真を見てその大きさは分かっているつもりだったが、目の前の縄文杉は想像を超えた。思わず「すごいなー」と驚きの声が口をつく。保護のため根元まで近寄って触れることはできないが、ゴツゴツと白く光る幹の肌から何千年も生き抜いてきた生命の力強さがほとばしり出ているように見えた。



(写真5)祠が祭られたウィルソン株の内部

 

 
 宮之浦岳を独占した静寂の山歩きはここまでだった。縄文杉から先は案内人に引率された縄文杉観光登山客が列をなしていた。夫婦杉、大王杉、ウィルソン株、翁杉と次々に現れる巨木を見て森林軌道に降り立つと、後は約7.5キロの軌道上をひたすら歩く。苔むした斜面から滴り落ちる水を手にとり、ノドを潤すと疲れが飛んでいくようだった。歩き始めから10時間。強行軍だったが無事、荒川登山口に下山した。
 人類にとってかけがえのない屋久島の豊かな自然は、人類の賢明な判断による世界遺産への登録で開発による破壊から守られることになった。その中に身を置いてあらためて自然の営みの素晴らしさと偉大さを思わずにはいられなかった。

(O.K=静岡市在住)







           

  (写真6)深い森の中を進む

  (写真7)日本庭園のような花之江河      (写真8)ガスが流れる中、白く浮かび上がるヤク  
   シマシャクナゲ   

           

  (写真9)ガスに包まれた宮之浦岳山頂 

  (写真10)世界自然遺産登録地域を示す標識      (写真11)森林軌道の上を歩く  
  













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