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おとな派 読み物

【寄稿・わが至福の時】小海線で行く晩秋の軽井沢

2007/11/16

(写真1)小海線車窓からの燃えるカラマツ林の上に浮かぶ八ヶ岳

 標高が1000メートル以上もある八ヶ岳山麓をトコトコと走る高原列車のJR小海線。だれもが一度は乗ってみたいという人気の高いローカル線だ。八ヶ岳を背景に沿線のカラマツ林が黄金色に染まって秋本番を演出している、との情報に矢も楯もたまらず時刻表を開いた。11月中旬、せっかくだからと軽井沢まで足を延ばして旧碓氷峠へのハイキングを楽しむ2泊3日の旅に出た。旧碓氷峠への山道は落葉が進む中、初冬の陽ざしを浴びて真紅のモミジが最後の輝きを放っていた。

  標高881メートルの小淵沢駅を発車した2両編成の列車は、JR線の最高地点(1375メートル)に向けて駆け上がっていく。すぐに八ヶ岳が姿を見せ、沿線の景観はどんどん秋色を深める。JR駅で最も高い野辺山駅(1346メートル)を過ぎるとカラマツ林の上に八ヶ岳が浮かんで見える。まるでカラマツ林の炎が八ヶ岳を焼いているようだ。



(写真2)小海線はカラマツ林の間を縫って走る。
正面は八ヶ岳

(写真3)黄金色の斜面のトンネルに入る

 のんびりとしたレールの音を響かせて列車はカラマツ林の間を縫うように走ったかと思うと、黄金色の斜面に突っ込むようにトンネルに入る。抜けると千曲川の渓谷が紅葉と水の見事なコントラストを見せていた。佐久平まで約2時間の小海線の旅は、息もつかせぬ車窓の展開に、あっという間の思いだった。

 冬支度に入った軽井沢は夏の喧騒から静けさを取り戻していた。しかし、林の中を彩るモミジやカラマツ、ドウダンツツジなどの紅葉は静寂の中に秋の終わりの華やかさを演出していた。別荘の庭先にある小さな真っ赤な実をつけたイチイやニシキギは、一足早く飾り付けを終えたクリスマスツリーを見るようだ。軽井沢一の紅葉ポイントといわれる雲場池は、盛りは過ぎたとはいえまだまだ見ごたえ十分。飛来したカモなどの冬鳥が赤く染まる水面を揺らしていた。

 信州(長野県)と上州(群馬県)の国境にある旧中山道の要衝・旧碓氷峠(1190メートル)へは旧軽井沢銀座から約4キロの道のり。銀座を通り抜けて遊歩道から山道のハイキングコースをたどる。遊歩道入り口の手前の林の中にショー記念礼拝堂がある。ショーは1888年(明治21年)に軽井沢に別荘第1号を建てたカナダ生まれのイギリス人宣教師。避暑地としての軽井沢の素晴らしい自然環境を内外の知名人に紹介したことから「避暑地軽井沢」の歴史が始まったという。礼拝堂の前にはショー師の胸像が立ち、裏には移築・復元された別荘が当時を今に伝える。

(写真4)雲場池の周囲を赤く縁取るドウダンツツジ

(写真5)光を通して輝くモミジ




 峠への山道は入り口から峠まで落ち葉の長~い絨毯が敷き詰められていた。踏みしめるたびに「カサッ、カサッ」と鳴るフカフカの落ち葉に足取りも軽くなる。目を上げればほとんどの木々が葉を散らした中で、モミジだけが命を燃やし尽くすように輝いている。重なり合う紅の葉を通した光の下にたたずむと身も心も真っ赤に染まるようだった。

  峠の見晴台からは峻険な峰を連ねる妙義山と赤城山、榛名山の上毛三山や噴煙を上げる浅間山など上州から信州にかけての山々の絶景が広がっていた。峠の茶屋で名物・力餅に満足しながら往時の旅人の苦労に思いをはせ、落ち葉が夕陽に光る山道を下った。

 旅の終わりの3日目。前日までの好天と打って変わり軽井沢は強い風と冷たい雨になった。前日に乗ったタクシーの運転手が言っていた。「いつもの年だと11月に入ると間もなく強い風が吹いて、軽井沢の紅葉が一夜で消える。今年はまだその風が吹かないからきれいに残っている。良かったですね」。その強い風がこの日に吹いた。最後の紅葉を見ることができたのは実に幸運だったというべきか。八ヶ岳を隠しガスが流れる帰りの小海線沿線は2日前に比べ紅葉が一段と進んだように見えた。

(O.K=静岡市在住)

(写真6)ショー記念礼拝堂 (写真7)落ち葉が敷き詰められた山道 (写真8)峠への山道で最後の輝きを見せるモミジ

(写真9)軽井沢の象徴の浅間山 (写真10)ニシキギの実 (写真11)コケと落ち葉が素晴らしいコントラストを見せる別荘の庭











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