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おとな派 読み物

【寄稿・わが至福の時】早春の戸隠高原

2008/05/29

 ミズバショウが見たくなって5月中旬、長野県の戸隠に行ってきた。標高が約1200メートルもある戸隠高原は雪がようやく解けて遅い春が到着したところだった。ミズバショウと山桜が美しさを競い合うという、山深い高原ならではの春を演出していた。
 この時期に戸隠を訪れるのは3年ぶりのこと。早春の山の花やカラマツなどの芽吹きが輝くシーズンなのに訪れる人は意外に少なく、静かなハイキングを楽しむことができる。その美しい自然を、知り合いとも共有したくて今回は熟年夫婦4組による2泊3日ののんびりハイキングとなった。
鏡池に映る戸隠連峰

鏡池に映る戸隠連峰


ミズバショウとリュウキンカの競演

ミズバショウとリュウキンカの競演

ヤマザクラの足元に咲くミズバショウ

ヤマザクラの足元に咲くミズバショウ

 「戸隠にこんなにミズバショウが咲くとは知らなかったな」とMさんが驚いたように、戸隠高原では雪解け後、あちこちにミズバショウの群落が見られる。その中でもお気に入りは黒姫山(2053メートル)登山道脇の古池周辺にある湿地帯のミズバショウだ。訪れる人はほとんどなく、黄色のリュウキンカや白のニリンソウとの競演の中にゆったりと身を置くことができる。満開の山桜の足元に白い帯のようにミズバショウが咲き、散った山桜の花びらがその周りを、円を描くように漂っていたのも印象的だった。
 ハイキングコースは戸隠牧場から奥社参道、戸隠森林植物園に至る「ささやきの小径」が好きだ。戸隠牧場は高妻山(2353メートル)の登山口にあり、登山道沿いにはニリンソウが白い絨毯を敷き詰めたように咲き乱れていた。静岡では珍しいニリンソウだが「戸隠では山菜として食べることもある」と3年前に牧場入り口のそば屋の主人に聞いた。今でも食べることがあるのか今回は聞き漏らした。しかし、ニリンソウは前回にも増す美しさを見せていたことから、地元の人たちも可憐な花を食するのは忍びないと考えているのだろうと一人得心した。
 戸隠山(1904メートル)の麓を巻きながら歩く「ささやきの小径」はまさに植物の観察路だ。見上げれば雑木林、カラマツ林の芽吹きが光る。淡い緑の中にコブシの花が白いアクセントをつけている。足元にはミズバショウ、リュウキンカ、ニリンソウの他、カタクリ、キクザキイチゲ、エンレイソウ、ショウジョウバカマ、エンゴサク、スミレなどスプリング・エフェメラルと呼ばれる春の花が次々と姿を見せる。見とれてばかりでなかなか足が進まない。奥社参道までコースタイムの2倍以上の2時間余かかった。

 森林植物園(入場無料)も見応えがある。野鳥のさえずりを聞きながらミズバショウが咲き誇る園内の木道散策は時が経つのを忘れさせてくれる。自生のものはめったに見ることができなくなった絶滅危惧種のドガクシショウマが、園内にある森林学習館の庭に保護されて咲いていた。うつむき加減に咲く淡紅紫色の花は楚々とした麗人を見るようだった。
 早朝に訪れた鏡池はその名の通り戸隠連山を鏡のような水面に映していた。「どちらが映っているのか分からないほどだな」と同行のSさんが感嘆。カメラのシャッターを何枚も切る。見事な鏡ぶりに「ちょっと水面が揺れるといいのだが」などという贅沢な声が聞こえた。小鳥ヶ池は東山魁夷の絵を見るような心休まる光景を見せていた。
 戸隠といえば、そば。ハイキング旅の締めくくりに中社前の行列ができるそば屋で竹ざるに盛られたそばの味を満喫。天気にも恵まれて目には美しい自然の姿を焼きつけ、お腹には本場のそばの味を滲み込ませて、またの来訪を胸に秘めた。

(O.K=静岡市在住)

戸隠牧場のニリンソウの群落

戸隠牧場のニリンソウの群落

東山魁夷の絵を見るような小鳥ヶ池

東山魁夷の絵を見るような小鳥ヶ池

楚々と咲くトガクシショウマ
楚々と咲くトガクシショウマ
カタクリの群落
カタクリの群落
キクザキイチゲ
キクザキイチゲ
エンゴサク
エンゴサク
シロバナエンレイソウ
シロバナエンレイソウ
ショウジョウバカマ
ショウジョウバカマ


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