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おとな派 読み物

【寄稿・わが至福の時】おしょうしな、飯豊山

2008/07/28

 山形、福島、新潟の3県にまたがる飯豊(いいで)連峰はその規模といい、峻険な山岳景観といい、豊かな自然といい、東北地方屈指の山塊である。冬は日本海側からの季節風の影響を強く受けて大量の雪が降るため、夏でも雪渓や雪田があちこちに残り、多様な高山植物をはぐくんでいる。主峰の飯豊本山(飯豊山 2105メートル)は古くから信仰の対象となり、戦後もしばらくの間は信仰登山が行われていたという。7月下旬、山の仲間とともに山形県の大日杉登山口から山小屋泊まり1泊2日の日程で飯豊本山を目指した。
 登山道はいきなりの急登で始まった。すぐに汗が噴き出す。雪が残る東北の山とはいえ、標高が1000メートルに満たない山裾は暑い。歩き始めて30分ほどで現れた長いクサリ場では息が上がる。ブナ林の登山道は強い日差しを遮ってくれるが、風がソヨとも吹かない。水筒の水がどんどん減って水場までもつか心配になる。格好の休憩場所に「ザンゲ坂」の看板があった。道理で顔を上げられないほどの急な登りなのだ、と納得。ザンゲはさらに地蔵岳(1539メートル)まで続いた。
お花畑の向こうにそびえる飯豊連峰最高峰の大日岳

お花畑の向こうにそびえる飯豊連峰最高峰の大日岳


大日杉の登山口

大日杉の登山口

ヒメサユリとニッコウキスゲ

ヒメサユリとニッコウキスゲ

 地蔵岳からは尾根道に変わり、雪の残る飯豊本山の山並みが潅木の間に見え隠れする。山の花も多くなる。前を歩く仲間が叫んだ。「ヒメサユリだ」。飯豊を代表する花の一つのヒメサユリは小ぶりのユリで、濃いピンクの花が可憐だ。開花したばかりで花弁がキラキラ光る。何ともいえない気品ある美しさがいい。
 あちこちに雪が残る中、登山道の途中から山小屋の切合小屋へ近道できる雪渓歩きを選んだ。軽アイゼンをつける。雪渓を吹き降ろす風が心地よい。雪が解けたばかりの斜面にはシラネアオイ、サンカヨウ、ハクサンコザクラ、イワイチョウ、ショウジョウバカマなどの高山植物が咲き誇る。ミズバショウもある。息も心も弾む。
 登り始めて約6時間。この日の宿の切合小屋前のベンチや広場は、夕食前の山上でのひと時を楽しむ登山者でにぎわっていた。持参した米3合を出して宿泊手続きをとる。かつて山小屋に泊まるには食糧持参が当たり前だった。その伝統がこの小屋には残っていた。夕食は水っぽいカレー、朝食はご飯とみそ汁と生卵。いたって質素だ。それがまたおいしいのだ。お代わりをしたかったが遠慮してやめた。
 夕食が終われば寝るだけだ。1畳のスペースに2人が割り当てられ、背負い上げた寝袋に潜り込んだが、なかなか寝付けなかった。

 翌朝は5時出発。朝日が雲間に赤く燃える。花畑の向こうには飯豊連峰最高峰の大日岳(2128メートル)が斜面に雪を頂いて輝く。ヒナウスユキソウ、ヨツバシオガマ、チシマギキョウ、ニッコウキスゲ、ハクサンシャクナゲ、アオノツガザクラ、オヤマノエンドウ、ミヤマダイモンジソウ、そしてヒメサユリと花の写真撮影に忙しい。小屋から2時間ほどで到着した飯豊本山山頂からは、山懐深い飯豊山塊の核心部を見ることができた。それは厳しい豪雪地帯にあって、夏のつかの間に見せる優しい姿だった。
 下山を始めて間もなくの山頂直下で、この山の固有種イイデリンドウを見つけることができた。飯豊山に来たからには是非とも出会いたい花だった。開いていたのはわずか一輪だったが、直径2センチほどの青紫の小さな花が疲れを吹き飛ばしてくれた。
 残雪と花の天国から下りた下界は厳しい暑さだった。ビールを求めて立ち寄った酒屋で支払いを済ませると「おしょうしな」と店員。何を言われたのか分からず、きょとんとしていると今度は「ありがとうございました」。「おしょうしな」は山形・米沢地方の方言で「ありがとう」とのこと。
 まさに「飯豊山よ、おしょうしな」の山旅だった。

(O.K=静岡市在住)

雪渓脇に咲くシラネアオイ

雪渓脇に咲くシラネアオイ

切合小屋に向けて雪渓を詰める

切合小屋に向けて雪渓を詰める

濃い紫色のハクサンコザクラ
濃い紫色のハクサンコザクラ
繊細なヒナウスユキソウ
繊細なヒナウスユキソウ
飯豊連峰の中心部、飯豊本山(右)と大日岳(左)
飯豊連峰の中心部、飯豊本山(右)と大日岳(左)
飯豊本山山頂
飯豊本山山頂
山頂直下の斜面を飾るヒメサユリ、ニッコウキスゲなどのお花畑
山頂直下の斜面を飾るヒメサユリ、ニッコウキスゲなどのお花畑
飯豊山固有種のイイデリンドウ
飯豊山固有種のイイデリンドウ


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