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おとな派 読み物

【寄稿・わが至福の時】利根川源流域の最高峰 平ヶ岳

2008/09/08

 登山道に正規ルートと非正規ルートがある山というのも珍しい。表登山道、裏登山道と呼ばれるような、登山道がいく本もつけられた山が多い中で新潟・群馬県境の平ヶ岳(2141メートル)は正規ルートと呼ばれる登山道1本しかない。いや、1本しかないことになっている。多くの登山ガイドブックや地図にも登山道は1本だと紹介されている。ところが実際にはもう1本、立派な登山道がある。
 正規に対して非正規ルートともいえるもので、この登山道を20年ほど前に皇太子殿下が登って、その存在が知られるようになった。正規ルートでは山頂まで往復10時間以上も掛かるのに対して、非正規ルートだと半分の往復5時間程度で登ってこられる。その短縮ルートがなぜ正規の登山道として認知されていないのか。非正規ルートの登山口は国道352号から林道を約13キロも入ったところにある。その林道は一般車両の通行が禁止されている。地元の共有地を通っている上、十分な整備が行われていないため一般車両を通行させるには危険が大きいという。
姫ノ池から望む平ヶ岳(左奥)

姫ノ池から望む平ヶ岳(左奥)


登山者でにぎわう林道終点の登山口

登山者でにぎわう林道終点の登山口

朝日に光る越後三山

朝日に光る越後三山

 ところが銀山平温泉など地元の宿に宿泊した客には、この林道を通って登山口まで宿のマイクロバスで送迎するというサービスがある。地元のビジネスと結びついた登山ルートなので紹介されていないのだろうか。この登山道は平ヶ岳山頂付近の貴重な自然を守る木道整備などのために開かれた私的な作業道という。自然保護を目的に開かれた登山道を地元ビジネスに結び付けて利用させることに何となく違和感を覚えないわけではないが、地元に泊まってくれた客へのせめてものサービスということなのだろう。山頂付近まで一般道やロープウエー、リフトが通じている山に比べれば、自然保護の観点からもずっといいのではないかと思うし、奥深い山に入るには宿や山小屋に泊まらなければならなかったり、有料の専用車を利用しなければならなかったりするところはたくさんある。
 8月末、その宿のサービスを利用して平ヶ岳を目指した。平ヶ岳は利根川源流域の最高峰で、山頂付近に広がる高層湿原は登山者を魅了してやまない。宿を取った銀山平温泉はススキが銀色の穂をなびかせ、秋の気配を色濃くしていた。
 午前4時、平ヶ岳登山の宿泊客を乗せたマイクロバスが宿を出発、約1時間半で登山口に到着した。一般車両通行禁止の林道に入ってからは未舗装のデコボコ道のため13キロ走るのに1時間かかった。登山口には6台が駐車、多くの登山者が準備をしていた。

 短縮ルートとはいえ標高差は900メートル近くあり、急登が続く。背後に越後駒ヶ岳など越後三山が姿を見せるようになると稜線は近い。灌木帯を緩やかに登ると突然、目の前が開けて草原に飛び出す。谷の向こうに文字通り平坦な稜線を広げる平ヶ岳がどっしりと構えていた。
 ここからは自然保護のため整備された木道を歩く。湿原には大小の地塘が点在し、青空を映して美しい景観を見せる。姫ノ池から望む平ヶ岳はとても2000メートル峰とは思えない穏やかで、たおやかな姿だった。湿原にはイワショウブの白い花穂が揺れ、リンドウやアキノキリンソウなど秋の花が彩りを添えていた。
 広大な湿原が広がる山頂部で木道から10メートルほど入ったところに低木に囲まれて標識と三角点があった。三角点に手で触れ、木道に戻って一休み。目の前に広がるはずの燧ヶ岳など尾瀬の山並みは、ガスが上っていつの間にか隠れていた。
 帰路、平ヶ岳のシンボルとなっている「玉子石」に立ち寄る。石の上に大きな玉子を載せたような奇岩は、花崗岩が浸食されてできたという。まさに自然の造形の妙に驚くばかりだ。
 登山口には朝、送ってくれたマイクロバスが待っていた。往復6時間、それなりに充実した山歩きだった。大きく揺れるバスの中で、非正規ルートが何となく裏道のように言われていることにちょっぴり反発を覚えていた。

(O.K=静岡市在住)

尾瀬の燧ヶ岳を望む木道歩き

尾瀬の燧ヶ岳を望む木道歩き

登山道脇に点在する美しい地塘

登山道脇に点在する美しい地塘

姫ノ池付近の美しい草原
姫ノ池付近の美しい草原
平ヶ岳山頂
平ヶ岳山頂
山頂付近の木道で休む登山者
山頂付近の木道で休む登山者
平ヶ岳のシンボルの玉子石
平ヶ岳のシンボルの玉子石
ゴゼンタチバナの実
ゴゼンタチバナの実
秋の山を彩るリンドウ
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