大展望の待つ山頂はもうすぐだ。はやる気持ちに足取りも軽くなる。するとちょっと先の登山道脇で砂が舞い上がった。風もないのになぜ砂が、とよく見るとライチョウが砂浴びをしているではないか。今年育った若鳥だろうか。6羽もいる。近づいても逃げない。カメラのシャッター音にも驚く様子はない。ライチョウは普通、天敵を避けるため朝夕のほかガスや雨の中を活動するといわれる。晴れた日に一度に6羽も。しかもこんな近くで見たのは初めてだった。
なんと幸運なことか。心が一段と弾む。
山頂は後からの登山者が来るまで暫くの間、独り(2人)占めだった。北アルプスの山々はもちろん遠く富士山から南アルプス、八ヶ岳連峰、浅間山、白山まで美しい淡彩画のように浮かぶ。眼下には上高地に梓川の流れが光り、目の前には黒々としたジャンダルムの重厚な岩峰が迫る。「素晴らしい!」。心の中で何度も何度も快哉を叫んでいた。
山頂からの大パノラマをゆっくり満喫した後、穂高岳山荘まで戻って涸沢岳をピストン、涸沢ヒュッテに下った。ヒュッテ前ではウラジロナナカマドの実が赤く色づいて、これから始まる秋の華やかな演出の幕開けを告げていた。
(O.K=静岡市在住)