広々とした大岳山頂は360度の展望が広がり、北に南に八甲田の山並みが続く。目を落とすと、これから向かう毛無岱の草紅葉が光っていた。厳冬期には山肌のアオモリトドマツが樹氷群となって素晴らしい景観を見せてくれるという。目を閉じてその景観を想像すると、また、死の雪中行軍を描いた映画のテーマ音楽が頭の中に流れてきた。大岳から上毛無岱に下り田茂萢岳に登り返す5時間の山歩きは、命の洗濯をさせてくれた“青空行軍”だった。
今回の山旅最後の目的地・八幡平に向かう樹海ラインから岩手山が雲海の上に美しい姿を見せてくれた。南部富士と呼ばれる秀麗な岩手山の隣にある八幡平は、岩手山とは対照的に山頂がどこにあるのか分からない高原状の山だ。見返峠直下の駐車場から整備された石畳の登山道を歩くこと30分ほどでアオモリトドマツに囲まれた三角点のある最高点に達した。あまりにあっけない最後の百名山への登りだった。
深田久弥は著書で「八幡平の真価は、やはり高原逍遙にあるだろう」と記している。八幡沼、ガマ沼、メガネ沼、鏡沼など広大な高原のあちこちに点在する池や沼を愛で、草紅葉の草原をゆっくり逍遙しながらこれまでの山歩きを振り返った時、山からもらった数々の感動にあらためて胸が熱くなる思いだった。
(O.K=静岡市在住)