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おとな派 読み物
【寄稿・わが至福の時】
雪国に早春の花を求めて 新潟・弥彦山
2009/04/13
早春になると会いたくなる花がある。60歳代も半ばになるという男が「花に会いたい」だなんて書くのは気恥ずかしいが、「見たい」というより「会いたい」というのが素直な気持ちだろう。スプリング・エフェメラル(春の短い命、春植物)と呼ばれる早春の野に咲く花は、どれも厳しい冬を生き延びた喜びに満ちあふれているようにみえる。人びとも春の訪れを心待ちにしていただけに、その訪れをいち早く告げる花に、より思いがこもるのだろう。
その花を求めて4月初め、雪国・新潟県の弥彦山(標高634メートル)に出かけた。スプリング・エフェメラルの中でも特に会いたかったのはオオミスミソウ。雪割草とも呼ばれ、雪解け直後の落葉樹林の明るい斜面を飾る。白、青、ピンク、紫と花の色が豊かで、可憐という形容が最もふさわしい花の一つだろう。赤紫のカタクリや白、青のキクザキイチゲと競い合うように咲く様子は「枯れ葉の敷き詰められた林床に宝石を散りばめたような」という表現がぴったりだ。
小さな滝のある八枚沢登山口
シュンラン
羽化したばかりのギフチョウ
越後平野の日本海に面した国上山、弥彦山、角田山と続く山塊はスプリング・エフェメラルの宝庫として知られ、訪れる人が年々増えているという。2年前の同じ時期に初めて訪れた時、弥彦山の八枚沢登山口には1台の車も止まっていなかったが、今回はウイークデーにもかかわら十数台の車が道路脇にまであふれていた。人が大勢訪れることは自然界にとって決して好ましいことではない。そう思いながらも花に会いたいという気持ちを抑えられなかった。花の様子は2年前と変わっていないだろうか。自分も大勢の中の一人として内心、忸怩たる思いで登山道に取り付いた。
コースは妻戸尾根を辿って弥彦山に登り、下山は西生寺からの登山道を途中から雨乞山への尾根に入り、八枚沢登山口に戻る。妻戸尾根の登りがちょっと急だがゆっくり歩いても1周4時間程度だ。歩き始めてすぐにシュンランやカタクリ、コシノコバイモ、セリバオウレンが姿を見せ、さっそくカメラを向ける。登るにつれて期待通りにオオミスミソウが次々と現れ、明るい林床を飾っている。日本海から吹き上げる風はまだ冷たいが陽差しは春。羽化したばかりの春の女神・ギフチョウや越冬したヒオドシチョウが羽を広げて陽光を浴び、体を温めていた。
弥彦山山頂は大勢の登山者でにぎわっていた。オオミスミソウを目当てに来た人たちばかりだ。長靴を履いた地元の登山者が「見ごろはちょっとすぎたが、ようやく天気が良くなって今日は最高の花見日和だよ」と教えてくれた。3月下旬の新潟は連日、天気がぐずつき、いつまでも雪が降った。天気予報で久しぶりに晴れマークとなったのを見て、「それっ」とばかりに車を飛ばして訪れたのがこの日だった。
下山道も期待に違わなかった。オオミスミソウとカタクリ、キクザキイチゲが清楚な美しさを競い合う傍で、お世辞にも美しいとは言えないカンアオイの花が落ち葉の間から顔を出している。見上げればマルバマンサクやキブシ、ヤマザクラが、咲き始めたばかりの花を枝に揺らしていた。
雨乞山への尾根筋はカタクリが斜面を埋めている。登山道脇では踏みつけられるものも。そんな登山道脇で黄色い花のキバナノアマナが目を引いた。八枚沢登山口に近づくと日陰の斜面に雪国特有のユキツバキの赤い花がシンプルで控えめな美しさを見せ、薄暗い沢の脇ではショウジョウバカマが輝いていた。
2年ぶりに再訪した弥彦山は前回と変わらず山全体を使って春の喜びを表現しているようだった。山笑う時まではもうすぐだ。
(O.K=静岡市在住)
花の宝石のようなオオミスミソウ
マルバマンサク
キクザキイチゲ
白いオオミスミソウとカタクリの競演
キバナノアマナ
右からコシノコバイモ、カタクリ、エンレイソウ
ユキツバキ
両側をカタクリが彩る登山道
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