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おとな派 読み物

【寄稿・わが至福の時】梅雨の晴れ間の権現岳

2009/07/01

 梅雨時期の山登りは天気予報とにらめっこをしながら計画を練る。1週間先の予報が晴れマークとなっていても、その日が近づくと雨マークになってしまうことも、たびたびだ。結局、予報を見て「明日は良さそうだから」と急遽、出かけることが多い。暇人だからこそ出来ることで、仲間を誘いたくても前日の誘いに乗ってくれる人は、まずいない。だから大抵単独行となる。今年は梅雨入りしたと思ったら、すぐに中休みとなった。静岡、山梨、長野の3県にそろって晴れマークがついた6月中旬、南八ヶ岳の権現岳(2715メートル)に向かった。

 新緑に囲まれた天女山山頂駐車場に着くと、どこからかカッコウの鳴き声が聞こえてきた。カッコウだけではない。耳を澄ますと、いろいろな野鳥のさえずりが聞こえてくる。ひんやりと澄み切った空気に包まれた標高1500メートルほどの南八ヶ岳山中は、静寂と、それを破るように響く野鳥の鳴き声が交互に支配していた。見上げれば薄雲が広がっているが日も差して天気はまずまず。これなら富士山や南アルプスの大展望を期待できそうだ。はやる気持ちを抑えながら身支度を整える。カッコウの鳴き声が一段と大きく響く中、午前6時前、駐車場脇にある権現岳への登山口に立った。

天の河原からの富士山


北岳(左)から甲斐駒ヶ岳(右)に連なる南アルプス

キバナノコマノツメ

 コースは前三ツ頭(2364メートル)、三ツ頭(2580メートル)を経て権現岳へ、登り4時間、下り3時間。この時期、どんな高山植物が見られるかも楽しみだ。歩き始めて10分。早速、天の河原の展望台(1620メートル)に残雪を抱いた富士山と、北岳から甲斐駒ヶ岳に連なる南アルプスの大展望が用意されていた。標高日本一の富士山と2番の北岳がひと目で見られるところは、そうざらにない。この景観を見られただけでも来た甲斐があったというものだ。

 富士山を背に前三ツ頭への急登に差しかかろうとしたとき、林の中でガサゴソと音がする。「まさかクマが」。一瞬身構えると50メートルほど先にシカが振り向いてこちらを見ていた。カメラを向ける間もなく姿を消すと、「ピー」という警戒の鳴き声が何度も響き渡った。その鳴き声に送られるように急登に取り付く。急斜面にカラマツの新緑がまぶしく輝く。黄色い花のキバナノコマノツメに続いてピンクのコイワカガミが足元を飾るようになると傾斜も緩み、間もなく前三ツ頭に出る。相変わらず富士山、南アルプスの眺めが素晴らしい。

 三ツ頭への尾根筋からは一段と展望が開ける。間近な編笠山(2524メートル)の向こうに中央アルプスが、さらには御嶽山、北アルプスも遠望できる。三ツ頭山頂に着くと南八ヶ岳核心部の山々のパノラマが、突如として目の前に広がる。目指す権現岳、その横に阿弥陀岳(2805メートル)、そして八ヶ岳連峰最高峰の赤岳(2899メートル)が端正な姿を見せる。権現岳は赤岳と対照的に鋭い爪のような岩峰を天に突き上げている。

 三ツ頭からいったん鞍部に下り、権現岳へ登り返す。高嶺に遅い春を告げるミネザクラが青空を背景にピンクの小さな花を揺らし、最後の登りを応援してくれる。岩峰らしく途中、短いクサリ場があるが危険はない。ハイマツ帯の岩の斜面をトラバース気味に登ると、山頂直下に小さな祠があった。八ヶ岳権現が祀られているといわれ、古くからの八ヶ岳信仰を伝える。祠の下にはようやく花を開き始めたばかりのハクサンイチゲやミヤマキンバイ、ヒロハノアマナなどが小さなお花畑をつくり、出迎えてくれた。

 岩壁をよじ登った山頂からは赤岳、阿弥陀岳が一段と間近に迫り、その向こうに横岳、硫黄岳も見える。東側が切り立った崖の山頂はリュックを置いてゆっくり休む広さもなく、足がすくむ。山頂から30メートルほど北の小広い赤岳への縦走路上で、むすびを頬張りながら心行くまで景観を堪能した。

 権現岳の西峰といわれるギボシ(2700メートル)を往復した後、来た道を引き返し、午後1時前、天女山の駐車場に戻った。この日、出会った登山者は4人。梅雨の中休みをついての静かな山歩きだった。

(O.K=静岡市在住)

ピンクのコイワカガミ

三ツ頭山頂からのパノラマ。左が権現岳、右が赤岳


青空をバックにミネザクラ

山頂直下の祠。右は赤岳

狭くて撮影もままならない権現岳山頂

間近に迫る赤岳(右)と阿弥陀岳(左)

赤岳への縦走路から見た権現岳山頂

雲が沸く赤岳

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